メールマガジン第7号

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○目次

Ⅰ ”農村ユートピア” を目指して

   ~バイオガスプラントを核とした再生可能エネルギーの地産地消の取り組み~

Ⅱ イベントのお知らせ

Ⅲ 事務局からのお知らせ

 

Ⅰ  ”農村ユートピア” を目指して

 ~バイオガスプラントを核とした再生可能エネルギーの地産地消の取り組み~

士幌町農業協同組合 畜産部長 西田康一氏

■「地域循環型農業」と「農村ユートピア構想」

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士幌町は道内有数の農業地帯・十勝平野の北部に位置し、畑作と酪農、畜産が互いに連携・補完しあいながら循環型の農業を営んでいます。畑作では適正輪作と土づくりを基本に、高品質な馬鈴しょを主原材料とした加工事業(デンプン・ポテトチップスなど)に早くから取り組み、畜産(肉牛)では酪農家で生まれたホルスタイン雄子牛を育成肥育した全道一の頭数規模を誇る「しほろ牛」ブランドを生産しており、酪農や畜産から堆肥を畑作へ供給するとともに畑作からは小麦殻(麦稈)を牛舎の敷料として供給するなど、有機的な結びつきによる地域循環型農業を推進しています。

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士幌の先人たちは農民・農村の暮らしを豊かにするために、先述の「地域循環型農業の実践」と「農村ユートピア構想」という2大スローガンを掲げて、奮闘邁進してきた歴史があります。「農村ユートピア構想」は、①福祉、②教育、③経済、の3分野を軸に生活向上と産業振興を図るもので、福祉分野(町が担当)では「母胎から楽土まで」を合言葉に各種事業を展開して、現在では「福祉村」と呼ばれる福祉施設ゾーンが形成され、また教育分野では町立士幌高校が地域産業の担い手を育成しています。農協が担当してきた経済分野では、基幹産業である農業振興の中核として、農産物の「生産から加工まで」を行う付加価値事業を推し進め、道内初となる農協直営(農民資本)の澱粉工場(昭和21年)に始まりポテトチップスやコロッケ、じゃがりこなどの加工事業を展開しており、また北海道協同乳業(昭和42年、現よつ葉乳業)、ホクレン清水製糖工場の創業では当時の太田寛一組合長が中心的な役割を果たし、直近の平成27年度農畜産物販売高は初の400億円超となる42,149百万円の実績となりました(組合員戸数413戸)。

 

■ 厄介ものの家畜ふん尿が酪農家の必要不可欠な経営資源に

酪農ではフリーストール化による規模拡大が進み、平成27年度生乳生産実績では史上最高の89,282トンとなり、1戸当生産量は1,333トンで十勝平均923トン(全道655トン)を上回り、ミルキングパーラー施設導入も38戸(56.7%、十勝平均33.6%)で、出荷乳量1,000トン以上のメガファームは29戸(43.3%)となっています。

しかしながら、フリーストール牛舎は、家畜(牛)にとっては繋留されずに自由に動けることから安楽・快適性を提供できるものの、ふん尿は水分が高いことから堆肥舎での好気性発酵は難しく、発酵の不十分なものが農地などに還元されることとなり、悪臭や河川、地下水への汚染が懸念され地域課題となっていました。平成10年頃から家畜糞尿の適正処理の検討を重ね、平成15~16年度、士幌町が事業主体となり3戸のモデル農家に個別型バイオガスプラントを3基、別々のメーカーにより建設して、実証試験に取り組むこととなりました。

バイオガスプラントによる処理は、糞尿を原料槽に投入した以降は、発酵槽、貯留槽と自動で送られ処理されますので、ふん尿を処理する手間(労働力)が大幅に軽減されます。また、発酵槽で約40℃で35~40日間、メタン(嫌気性)発酵させることから、悪臭がほどんどなくなり、速効性の高い液肥となります。更に、発酵の過程で発生するバイオガス(メタンガス)を燃料として発電しますが、同時に産出される温水を熱利用できるのがバイオガスプラントの最大のメリットで、当時のプラント施設は、発電した電力(出力25~40Kwh)と温水(60~80℃)を、一年を通して安定して牧場内で使用できるほか、余剰電力を売電することが可能となりました。

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プラントを導入した酪農家は、「従来の堆肥処理に比べて、消化液の圃場散布時においても積み込み作業がいらないことから楽で早く、ふん尿処理にかかる作業時間は半分以下に軽減された。パーラーの洗浄排水も処理可能で電気や灯油も大幅に節減することができた。また消化液を散布するようになってから肥料費も削減でき、牧草の発酵品質も向上し、何よりも牧場で山積みしていたふん尿が見えなくなり、臭いもストレスもない、きれいな環境で仕事ができるのはヒトもウシにとっても最高です」と話しています。

■ 北方型の個別型バイオガスプラント普及へ(第2世代型)

以上のようにメリットの多いバイオガスプラントでしたが、高額な建設費とメンテナンスなどのランニングコストが高いこと、また特に海外からシステムを導入した初期のプラントは冬季寒冷期間におけるトラブルが多く(凍結や配管の閉塞、ガス発生量の低下など)、稼働を休止してしまうプラントも見られるなど、普及はあまり進みませんでした。

しかしながら、平成23年3月11日に発生した東日本大震災・福島第一原子力発電所事故により、北海道では節電要請と計画停電がアナウンスされました。牛は暑熱ストレスに弱いことから牛舎には換気扇を装備して対策しており、またフリーストール・パーラーなどの動力のほとんどを電力エネルギーに依存していることから、酪農の生産場面では電力がストップすると全ての生産活動がストップしてしまう危機感が高まる中で、「牛を飼い生乳を出荷している限りは毎日産出される、かつては厄介ものであった家畜糞尿を活用して、自らの営農に必要不可欠な経営資源である「電力エネルギー」を生成・供給するバイオガスプラントシステムをもう一度見直そう」との気運が高まり、同じ頃、「再生可能エネルギー固定価格買取制度」(FIT)が創設されることをきっかけとして、士幌町では、町、JA、商工会の3団体で「士幌町再生可能エネルギー利用推進協議会」を設立、バイオガスプラント部会で普及に向けた取組を開始することとしました。

部会では、あらためて既存施設の技術検証と先進国であるドイツの視察などを行い、地元プラントメーカーの協力を得て、低コストで高効率かつシンプルなシステムで普及型となるバイオガスプラントを提案しました。

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平成24年度、JA士幌町が事業主体となって農林水産省の補助事業を活用し、規模などの異なる4戸の酪農家に4基の個別型バイオガスプラントを建設し、平成25年5月より本格稼働して酪農家に管理運営・実証業務を委託しています。これらプラントは町が建設したものと同規模(搾乳頭数170~270頭規模)ですが、高効率で50Kwhの発電を行うことができ(同年10月には64Kwhに出力アップ)、固定価格買取制度で全量売電(税別@39円/Kwh)して、施設の償還費とランニングコストを賄っています。

 

■ 消化液の広域高度利用、搾乳ロボット対応の仕組みへ(第3・4世代型)

「堆肥」は大型ダンプによる長距離輸送や畑作農家圃場での堆積が可能でしたが、バイオガスプラントの「消化液」は〔液状〕であることから運搬・散布には専用機械(タンカー・トラクター牽引式)が必要で、かつ畑作農家での堆積(貯留)ができない特性があります。平成26年度、850頭規模の大規模酪農家でバイオガスプラントを導入するにあたり、近隣畑作組合員の理解により消化液利用組合が組織化され、畑作団地に分散貯留槽(5,000トン×2基)を設置するなど、消化液の広域高度利用が可能となる第3世代型のプラントを建設しました。この世代のプラントから、発電機からのラジエーター廃熱(温風)を活用して、消化液の固液分離後の固形分を牛舎敷料としてリサイクルするなど、熱量をフル活用するシステムとしました。

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また、酪農現場の課題である過重労働負荷の軽減と、雇用労働力の確保が難しくなってきており、畜産クラスター事業などの補助事業の仕組み創設も相まって、搾乳ロボットの導入ニーズが高くなっている一方で、家畜糞尿はバーンスクレッパーという自動排出装置が必要となることから更に高水分となり、従来の堆肥化施設では対応できない新たな課題が生じることとなりました。平成27年度に導入したバイオガスプラントは、搾乳ロボット4台を設置した新築牛舎に併設して建設し、家畜糞尿の自然流下ピットや搾乳ロボットなどの凍結防止としてプラントからの温水を積極的に有効活用するプラントを建設しました。この年には、平成24年度にバイオガスプラントを導入した酪農家で、既存のフリーストール牛舎に搾乳ロボットを2台設置するなど、バイオガスプラントが搾乳ロボット導入の大きなアドバンテージを持つこととなっております。

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しかしながら、平成27年度に建設した2基については、接続する変電所(士幌)の関係から、5~6月の2ヶ月間は土日祝の毎日4時間(10:00~14:00)、売電を停止する制約を課せられる事となりました。

 

■ 初の2戸共同型バイオガスプラント(第5世代型) (平成28年度建設中)

また、本年は、酪農家2戸(飼養規模200頭・250頭)による本町初となる「共同型バイオガスプラント」モデルを設置することとし、農林水産省の事業採択を得て、現在、建設中です。震災復興やオリンピック需要、急激な円安などにより、バイオガスプラントの建設費用が高騰し、また急激に導入が進んだ太陽光発電などの影響で北海道電力との系統連携に制約(変電所の受入容量、配電線強化費用負担など)が発生するようになり、〔個別型〕では費用対効果が得られず、一方の酪農家敷地にプラント・発酵槽を建設し、一方の酪農家から糞尿を運搬する〔共同型〕とし、運営は2戸の新設法人により行うこととしております。毎日産出される糞尿原料の通年運搬(冬季間の路面凍結などのハンドリングとコスト負担)、消化液散布圃場の遠距離化や温水を一方の酪農家牛舎でしか利用できないなどの公平性確保、また敷料をリサイクル利用する場合の家畜伝染病リスクなど、これまでにない課題解決をしながらの運営となりますが、搾乳ロボットニーズや施設コスト高騰の中で、今後のモデルとなるプラント運営を目指しております。

 

■ 多様な再生可能エネルギーの地産地消(新電力の取り組み)と地域づくり

これまで町内で稼働している11基のバイオガスプラントの合計出力は1,100Kwhとなり、平成27年度における9基の系統連携売電実績は550万Kwhとなり、一般家庭約1,400戸分(組合員413戸のみならず、士幌町内全世帯約2,700戸の約半分)の電力をまかなっていることになります。

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また、今年4月からは、これらバイオガスプラントで発電した電気を地元で利活用する、地産地消の取り組みを開始しました。具体的には、町内酪農家のバイオガスプラント(現在は9箇所)で発電した電力を、小売電気事業者である農協子会社の㈱エーコープサービスが買い取り、エーコープ店舗や農協の事務所、小麦や食肉加工施設などに供給することで、これまで先人が進めてきた有機物の循環型の農業に加えて、エネルギー(電力)の地域循環・地産地消の仕組みが始まりました。

 

十勝は、日本国内でもトップクラスの日照時間であることから大規模太陽光発電施設の建設が積極的に進められていますが、そのほとんどが企業主導によるもので、地域へのメリットが少ないものでした。士幌町では自らが発電事業者となり太陽光発電所を建設(発電規模は最大988kW、年間約120万kW発電 = 一般家庭約220世帯分に相当)、収益は基金として積立て、省エネルギー化、公共施設、産業の活性化対策など地産地消と地域への利益還元を図る施設として稼働しています。本町には、このほか士幌町商工会が事業主体となった「小水力発電所」も建設・稼働しており、多様な再生可能エネルギーが生み出されています。

 

個別型バイオガスプラントを中核とした多様な再生可能エネルギーの自立分散供給システムを構築して地産地消を進め、地域の活力と豊かさを実感するマチ、先人が目指した”農村ユートピア”を目指しています。

 

 

Ⅱ イベントのお知らせ

日時 イベント 場所
12月2日(金)

13:30~17:00

地域を創るバイオマス利活用講座2016

-バイオマス関連補助事業の効果的な活用に向けて-

北海道大学工学部A101教室(予定)
12月7日(水)

13:30~17:00

北海道大学寄附分野 循環・エネルギー技術システム分野 第3回セミナー

「循環に貢献するバイオガスシステム」

北海道大学 学術交流会館 講堂
12月21日(水)

16:00~17:15

第3回「バイオマスカフェ」

スピーカー:阿賀裕英氏

北海道大学工学部材料化学棟311教室

 

Ⅲ 事務局からのお知らせ

当NPOの今年度事業の一環として、バイオマス利活用に取り組む市町村への支援事業を計画しておりますが、当別町さんが12月に開催するワークショップ(庁内関係部局、町民有志が参加)に石井先生・佐藤先生が基調講演者とコーディネーターとして参加します。今後も当別町さんの要請に積極的に対応し、バイオマス利活用の事業化に協力して行く予定です。

また、第1回(9/2)、第2回(10/14)の「バイオマス利活用講座」は、沢山の方々にご参加いただき大盛況となりました。12/2(金)がいよいよ最終講座となります。皆様のご参加を心からお待ち申し上げております。是非、周囲の皆様にも参加へのお声掛けをお願い致します。

発行:NPOバイオマス北海道 事務局
〒060-8628 札幌市北区北13条西8丁目 北海道大学大学院工学研究院内(MC311)
TEL:011-706-7284 FAX:011-706-7583
E-mail:biomass_hokkaido@yahoo.co.jp
URL:http://biomass-do.jp/wordpress/